美意識を映す、黒の余韻 -大阪市 西区 I邸 -

現代アートや家具を愛し、自分にとって心地よいものを、自分の感性で選ぶ。
I邸の住まいづくりで印象的だったのは、施主が最初から細かな仕様を決めていたわけではないことだ。
以前からRe:MansionのホームページやX、YouTubeをご覧になっており、
初期の段階から「信用しているので、お任せします」と話してくださった。
その信頼を受けて、Re:Mansionが読み取ったのは、ひとつの明確な方向性だった。
「住宅的な温かみみたいなものは、特にいらないです」
さまざまなホテルに滞在してきた経験を持つ施主が好んだのは、生活感を抑えた端正な佇まいと、暗く落ち着いた色調。
けれど、そこに並ぶのは、個性の強い現代アートと、施主自身が選んだ家具たちだ。
だからこそ、内装そのものが前に出る必要はない。
黒やグレーを重ね、石やガラス、木、金属の表情を響かせながら、好きなものがもっとも美しく見える背景をつくる。
間取り、素材、家具、そして光。
施主の美意識を起点に、それぞれの要素をひとつの世界観としてまとめていった。
竣工:2024年12月
立地:大阪府 大阪市 西区
目次
- 暮らしの輪郭を、先に描く
- 3LDKから1LDKへ。空間を整え、家具を生かす
- 選ばれたものに、居場所をつくる
- 玄関からリビングまで、視線をつなぐ
- 黒の中に、素材の声を重ねる
- キッチンに、ひとつのアクセントを
- 光を低く、余韻を残す
- しまう、飾る、選ぶ
- 毎日の場所こそ、美しく
- 好きなものと、帰る場所
暮らしの輪郭を、先に描く

大阪市内で新築マンションを探していた施主が選んだのは、タワーマンションとは異なる落ち着きを持つレジデンス。
当初は単身で暮らす予定だったため、既存の3LDKを1LDKへ変更したいという希望があった。
ただ、部屋数を減らして広さを得ることだけが目的ではない。
洋服やバッグ、靴などを多く所有していたことから、必要だったのは、暮らしの中にきちんと居場所を持たせること。
そうした日常の所作まで含めて、間取りを組み直していった。
一方、住まいに求める雰囲気は、当初から明確だった。
ホテルのように整った佇まい。
余計なものが視界に入りすぎない静けさ。
そして、暗く落ち着いたトーン。
料理をして、好きな家具に身を預け、アートを眺める…。
華やかさを足すことよりも、自分が選んだものと過ごす時間が心地よく続いていくこと。
その暮らしの輪郭を読み取りながら、計画は始まった。
3LDKから1LDKへ。空間を整え、家具を生かす

1LDKへの変更で生まれたゆとりは、ただ広いLDKに置き換えたわけではない。
住まいの形そのものを整理し、必要な場所へ振り分けていった。
そのひとつが、収納だ。
LDKを広げながらも、収納には十分なスペースを確保。
暮らしに必要なものをきちんと収められるよう、住まい全体のバランスを見直している。
部屋数を減らしたことで生まれたのは、単なる広さではない。
暮らしに必要な場所を見極め、空間のあり方を組み替えていく。

リビングの形にも、ひとつの工夫がある。
壁を少しセットバックさせたのは、家具を納めるためではない。
弊社の施工管理が着目したのは、部屋の形そのもの。
凹凸を残すより、できるだけ長方形に整えたほうが、視線が整理され、端正に見える。
その判断によって、LDKには家具を置いたあとにも窮屈さを感じさせず、LDK全体がひと続きに感じられる。
一方で、リビングの主役となるB&B Italia「Tufty-Time」は、
施主が「できるだけ大きなソファを置きたい」と希望していた家具。
サイズや位置について何度もやり取りを重ね、現在のレイアウトへたどり着いた。
選ばれたものに、居場所をつくる

I邸の家具やアートには、施主自身の審美眼が色濃く表れている。
ダイニングには、B&B Italiaの「OSKAR」。マットホワイトの天板とブラックの脚を組み合わせた端正な佇まいが、深い色調でまとめた空間にコントラストを添えている。

ソファのサイドには同じくB&B Italiaの「Spool」を合わせ、足元には直径200cmのラグ「Auris」。
施主がこだわったのは、ラグのサイズだけではなく、足を置いたときに感じる毛足の長さや豊かな質感まで。
家具そのものの美しさに加え、艶のある素材、マットな質感、わずかな色の濃淡。
異なる表情を持つものを重ねながら、ひとつひとつの家具が空間の中で生きるバランスを探っていった。
ワインセラーも、ビルトインのようにすっきりと納まるよう計画している。

施主のセンスで選ばれた家具をもとに、現地でサイズや色、周囲の素材との相性を確認し、全体のバランスを微調整していく。
アートも同じだ。
飾る場所に必要な下地やフック、ワイヤーなどを整え、展示するための環境を整える。
そこから先、どこに、どう飾るかを決めるのは施主自身だった。
だからこそ、完成した室内には「飾られたアート」というより、もともとそこにあるべきもののような馴染み方がある。
現代アートは、それだけで強い視線を集める。
ならば、壁が語りすぎる必要はない。
作品と内装が競い合うのではなく、互いの存在を引き立てる距離を保つ。
何かを足して印象をつくることよりも、選ばれたものが、選ばれたまま美しく存在できる居場所をつくることが、Re:Mansionの役割だった。
玄関からリビングまで、視線をつなぐ


I邸を訪れたとき、印象に残るのが玄関からLDKへと続く視線だ。
天井が低く、自然光も限られる玄関。
そこからL字に折れる廊下を抜けると、リビングが現れる。
ただ、ここで意識されているのは、玄関からリビングまでを一直線につなぐことではない。
日常の動きの中で、その先に何が見えるのか、そこまでをひとつの設計として捉えている。
玄関にはミラーを取り入れ、限られた光を反射させながら奥行きを感じられるように。
壁面にはブロンズメタリックのカラーガラス、その向かいには施主自身が選んだグレーミラーを合わせた。

そこから廊下へ進み、リビングドアには透明ガラスを採用。
扉を閉じても、その先の家具やTV面まで視界が届く。
「奥に見えてるものを、結構意識してます」
プランナーの言葉どおり、I邸では、部屋そのものだけでなく、そこへ向かう途中の視線までをひとつの設計として捉えている。
寝室へ向かえば、玄関側の突き当たりにある壁が正面に現れる。
反対に、寝室やパウダールームからリビングへ向かえば、TV壁面が目に入る。
どこへ向かうのかによって変わる視線の先に、どの壁面が現れ、どんな素材や光が見えるのか。
そうした日常の動きまでを含めて、空間を構成している。
特に印象的なのが、夜の時間だ。
リビングに明かりが灯ると、廊下の先に家具や光が浮かび上がる。
日常の動きの中に、ふと目に留まる光景が生まれる。
「奥に見えるもの」までをデザインする。
それもまた、I邸の空間を形づくる大切な要素のひとつだ。

その視線の先となるTV壁面には、レジスターが設けられていた。

そこで、換気口部分にもTV背面と同じタイルを施し、壁面の一部として自然になじむように納めた。
テレビ背面には、RIVIERAの「WATERFALL」。
深い色合いと天然石を思わせる質感が、光を受けるたびに奥行きをつくる。
造作部分には「プレシャスマルミ サンダーナイト(FR-755848)」を採用。
艶のある面を組み合わせることで、TVまわりに異なる質感を重ねた。

もともと施主からは、TV面にエタノール暖炉を設けたいという希望もあった。
さまざまな制約がある中、Re:Mansionが取り入れたのは、埋め込み型のエタノール暖炉を思わせるTV壁面のデザイン。
壁面に暖炉を埋め込むような構成をTVまわりに取り入れ、現代の住まいに合わせて再解釈し、TV壁面とテレビボードを一体的に構成している。
黒の中に、素材の声を重ねる

I邸の色調は、黒に近い深いグレーを中心に構成されている。
けれど、暗い色で統一しただけでは、この家らしい奥行きは生まれない。
既存フローリングの「ラテウォールナット」の色を基準に、壁や家具、素材の色味を組み立てていった。
壁にはダークグレーの「TH34681」。
天井にはライトグレーの「RH9085」。
同じ暗色の延長ではなく、上下で明度を変えることで、視線の上にはわずかな軽さを残した。
そこへ石、ガラス、木、金属といった異なる素材を重ねる。
硬質なものの中に、光を返す面がある。
こうした質感の差が、色数を増やさずに室内へ豊かな陰影をつくっている。

照明も、画面そのものを強く照らすのではなく、周囲の素材に光が落ちるよう計画。
間接的に光を重ねることで、テレビを見ていないときにも、背面のタイルや造作の質感が浮かび上がる。
必要な設備であっても、視界に入ったときに意識を向ける必要がないように。
キッチンに、ひとつのアクセントを


LDKの中で、キッチンは機能のための場所でありながら、視界に入ったときには一枚のインテリアとしても成立する場所。
もともとキッチン脇にあった物入は解体し、その壁面いっぱいにカップボードを設けた。
収納量を確保するだけでなく、キッチンとの一体感を持たせながら、LDKの中でひとつのアクセントとなるように。
扉にはNSG Interior「G28」のパール仕上げ。
光を受けるとわずかに艶が変化し、深い色調の中にきらめきを添える。
そこにメタリック塗装のリブパネルを組み合わせ、平滑な面と凹凸のある面を対比させた。

本体にはメラミン「K6400KN」、カウンターにはAICA FioreStone「クッキークランチWD03」。
異なる素材を使いながらも色味を抑えることで、キッチンだけが前に出ることはない。
暮らしに必要な収納でありながら、LDKの印象をつくる一部でもある。
I邸では、こうした日常の設備にまで、住まい全体の設計思想が行き渡っている。
光を低く、余韻を残す
照明計画でも、空間全体を明るくするのではなく、インテリアの一部として光を組み込むことを意識した。
もともと凹凸の多かった天井を整理しながら、間接照明や家具に組み込む光を空間に自然に取り入れている。
ダウンライトも、照らしたい場所と必要な明るさを考えながら配置した。
ただ照明を増やすのではなく、家具や素材に光が自然になじむように。
光の当たる場所と陰影の残る場所をつくりながら、I邸らしい落ち着いた照明計画に仕上げている。

寝室では、その考え方をさらに深めた。
グレーとウォールナットを基調に、LDKよりも落ち着いた構成とし、ベッドまわりや足元など、低い位置に光を置いた。
横長の室内窓は、隣接するWICとの視線をつなぐもの。
壁で閉じ切らず、視線だけが抜けることで、寝室にもほどよい広がりを残している。
明るさを足すのではなく、必要な場所に必要なだけ。
光を置くことと、置かないこと。
その両方を選ぶことで、夜のI邸には深い陰影が生まれる。
しまう、飾る、選ぶ

⬛︎ガラスショーケース Raiki
施主が選び、集めてきた洋服やバッグ、靴。
どれもひとつひとつにこだわりがあり、日々身につけるものだからこそ、しまっておくだけではなく、目に触れるかたちでも楽しめるようにした。
そこでWICには、ガラス扉やオープン棚によるディスプレイ収納を設けた。

一方で、すべてを見せるのではなく、鍵付き収納や季節物まで収められるスペースも確保。
シューズインクローゼットも、洋室のクローゼットを取り込み、ゆとりある収納へと広げている。

見せるものと、しまうもの。
その両方があることで、好きなものを眺めながら選ぶ楽しさと、室内の端正さを両立できる。
収納もまた、暮らしを支えるだけの場所ではない。
施主が大切にしてきたものを、美しくしまい、美しく見せるためのひとつの舞台となっている。
毎日の場所こそ、美しく

⬛︎タイル Marazzi/マイストーン トラベルティーノM9G4
洗面室には、Marazziの「マイストーン トラベルティーノ」。
トラバーチンを思わせる自然な表情が、これまでの硬質な素材とは異なるニュアンスを添えている。
浴室では、照明にもひと工夫。
バスタブ奥の間接照明と手前の照明を別回路とし、奥の光だけを残せるようにした。
洗面側からガラス越しに眺めたとき、浴室の奥に光だけが浮かぶ。
照明は、使う人のためだけにあるものではない。
別の場所から眺めたとき、そこにどんな景色が生まれるのか。
そのような視点を持つことで、毎日使う場所にも端正な美しさが宿る。
好きなものと、帰る場所
振り返れば、I邸は「何を置くか」だけでつくられた住まいではない。
施主が選んだ家具やアートを起点に、どこまでを見せ、どこを背景にするのか。
どこに光を置き、どこに余白を残すのか。
そうした小さな判断の積み重ねが、やがてI邸らしい空気をつくっていった。
Re:Mansionがつくったのは、誰かのための理想の住まいではなく、施主自身の美意識が自然と息づく場所。
「帰りたくなる家ができた」
完成したその場所に、施主自身がそう感じられたこと。
それが、この住まいの答えなのだと思う。
「RENOVATION OF THE YEAR(リノベーション・オブ・ザ・イヤー)2026」において、Re:Mansion からは「東京都港区 M 邸」と「大阪市⻄区 I 邸」がエントリーしています。
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